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心理療法

ボーエン家族システム論

ボーエン家族療法

ボーエン家族療法は、1950年代頃、アメリカで生まれた家族療法の基盤を築いたともいえる家族療法の1つです。精神科医であるマレー・ボーエン(Murray Bowen, 1913-1990)は、長年、統合失調症(schizophrenia)の患者とその家族の関係を研究することで、一般的に幅広く応用できる独自の家族療法理論を生み出しました。

ボーエン家族システム論は、家族を一個の「システム」と見る家族論です。1個のシステムとして見るということは、「1つの独立した機械的な組織」として見ることともいえるかもしれません。つまり、家族を形成するメンバーのそれぞれが、機械の部品のように役割を持ち、互いに無意識のうちにもバランスをとりあいながら、1個の家族として機能しながら存在しているということです。
このシステム論的視点のフォーカスとなるのは、家族における感情的要素です。つまり、家族を1つの独立した「感情の単位」としてみることで、家族というものが、感情をベースとしたそれぞれのメンバーの微妙な力関係によって成り立っていると説いています。たとえば、ひとりのメンバーに身体的、また精神的な病気などが生じた場合、他の家族メンバーが自ずから反射的に欠けた部分を補い、感情のバランスを安定させようとします。具体的な例をあげると、アルコール依存症の父を持つ家庭の妻と子供達は、アルコールに依存することで欠けてしまう父親の役割を微妙に穴埋めしてゆくようになり、家族という1つの感情システムのバランスをそれなりに安定させようします。

このように、ボーエン論は、長年、家族代々受け継がれてきた精神的要素や、家族内での互いの接し方や力関係のダイナミックスに焦点を当てながら、その家族特有の「慢性の不安」(chronic anxiety)というものが代々、世代を越えて、家族内に存在し続けてゆくことを説明する理論です。つまり、いわゆる肉体的な「遺伝」に加えて精神的な「不安」というような抽象的なものまでもが代々受け継がれてゆくという視点から「家族」を考えてゆきます。



             goldfish

ボーエン理論の中心的コンセプトである「個人の分化」(differentiation of self)は、家族のメンバー(特に子供)に自我が芽生えるに事によって「分化の力」が働き、家族団結の圧力よりも、自己を尊重する力が勝り、家族内の力関係のバランスが微妙に変化すると説いています。個人が家族から「分化」する度合いはそれぞれによって異なります。それぞれの家族には、目に見えない「感情の磁場」のようなものが存在するとも言え、その磁場の影響を受けながらも、あえて高度な分化を成し遂げた個人は、通常、感情のままに反射的に行動することを理性で抑え、冷静な判断のもとに自立した生活を営んでいけるようになるといわれえています。反対に、分化の程度が低いと、家族内だけでなく、友達や社会での人間関係においても存在する感情の磁場に激しく反応し、理性で感情を押さえられなくなり、ウツや他の精神的疾患の症状へと反転しやすくなるとも言われています。

たとえば、先のアルコール依存症の父をもつ家庭の子供の中に、その家庭で欠けている父の存在を穴埋めし、常に母をサポートする役割を持つ子供がいたとします。その子は、小さい頃からそういった役割を無意識に担っている為、学校や会社など、どの社会的組織の中でも、反射的に支配者であるべき人の穴埋め的役割を買ってでてしまうという衝動が起きてしまいます。また、組織内にアルコール依存という要素が含まれることに「慣れている」ため、それをどんなに嫌だと思っていても、無意識のうちに、そういったパートナーと結婚してしまったりというようなことを繰り返すことにもなる場合もあります。

しかし、成人になる過程において、「個人の分化」が始まった場合、自分が父の穴埋め的役割を担っていることに気づき、自分ひとりがそういった役割を担う必要もなかったのだ、と自分の家族を冷静に客観視できるようになる場合があります。この気づきを通して、今まで、父親の依存症を長年黙認してきた家族自体に問題があったのだ、という視点から、建設的な対処法を考えてゆけるようになるのです。まずは、「気づく」ことから全てが始まりますが、このプロセスは、今まで欠陥がありながらも機能し続けてきた「家族」という独立した感情システム全体のバランスを変えることにもなるので、ゆっくりと時間をかけて、無理のないように行う必要があります。難しいながらも「個人の分化」を自分なりに成し遂げることで、家族内に潜む「慢性の不安」や家庭内暴力などの連鎖も最小限に留めることもできるので、自分の代で家族代々の問題点を解消して行くことにもつながります。


「個人の分化」に加えてボーエン理論に含まれる家族関係のパターンは、「三角関係」(二対一の関係)、「感情のカットオフ」(断絶)、「世代間伝達プロセス」、「家族の投影プロセス」「出生の位置」、「社会情動プロセス」などが主なものです。ご興味のある方は、下記のサイトをご覧下さい。

http://rc.moralogy.jp/ronbun/54.html

また、自分の家族をこの療法によってご自身で分析してみたい人は、英語ですが、下記の本がとてもわかりやすく、家族を違った角度でみながら自己の分化の度合いなどの見当をつけたり、現在の人間関係でどういう点を改善すべきなのかが見えてくるかもしれません。

"Family Ties That Bind – A self-help guide to change through Family of Origin therapy",
By Dr. Ronald W. Richardson, Self-Counsel Press

ボーエン家族システム論の「教科書」ともいえる本は:
"Family Evaluation:An Approach Based on Bowen Theory" (家族評価)by Michael E. Kerr & Murray Bowen, W.W. Norton & Company:New York & London (1978)

もちろん、ご希望がございましたら、イーストサイド・カウンセリングで、ご一緒に分析することもできますので、お気軽に左上の「お問い合わせ」からご連絡ください。

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”Family Ties That Bind"の各章には、色々な質問事項があり、それについて考えることで、自分と家族とのつながりが徐々にはっきりと見えてきます。たとえば...

質問1:現在の親しい関係で(夫や、親友など)どのような問題点がありますか?
質問2:その問題点のどれかには、小さい頃からの自己の感情の反応(反射的な)を根源として持つものがありますか?
たとえば、現在、夫/妻との関係、また友達との関係でどのような悲しい気持が沸き起こりますか?
あなたの生まれ育った家族内で、あなたをそのような気持にさせるのは誰ですか?
2つの状況を比較して何か共通点はありますか?たとえば、そういった場合、あなた自身のその感情への対応の仕方は違いますか、同じでしょうか?

質問3:あなたの生まれ育った家族でオープンに話されていた家族内のルールとはどんなものだったでしょうか?
質問4:あなたの家族で、感情を表す時の暗黙のルールとして、どのような感情を持ち、表現することが許されましたか?
たとえば、亡くなられた家族などがいらした場合、その方については一切話題にしてはいけないとか、泣き言を言うと怒られたので、悲しいネガティブな気持は押し殺すようになったとか?
今もあなたは、そのような感情が沸き起こってきた時、小さい頃と同じように対処していますか?それとも「大人」としてのあなたに相応しい対応ができていますか?

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*作家、柳美里がカウンセリングを受けながら綴ったノンフィックション「ファミリー・シークレット」は、子供に手を上げてしまう自分と向き合う為、長く封印してきた過去を掘り起こしながら書き上げた作品。そのインタビューで彼女はこう語っています。

「本当のところ、誰だって家族の表に出せない秘密というのは怖いし、秘密の箱を開けたくありません。だから「墓場まで持っていく」ことになる。でも、そうすると次の世代に渡してしまうことになるのです。息子にそんな箱は渡したくありません。知ったことで傷つくよりも、知らないでどんどん蝕まれていくほうが、私には怖いです」(『婦人公論』10/22、中央公論社)

この「秘密の箱」こそがボーエン家族システム論を通して、はっきりと見えてくる大事な家族の「鍵」です。その過程では今まで思ってもみなかった家族のそして先祖代々のつながりがしっかりと見えてきます。決して容易なプロセスではありませんが、自己、そして家族の歴史を深く理解し、無意識レベルで衝動的に働くに自分の不安や恐怖心を次世代へ渡さないためにも、一生をかけてでも大変やりがいのあるプロジェクトとも言えるかもしれません。


ボーエン家族システム論や上記の質問事項等に関してのお問い合わせは、左上の「お問い合わせ」からお気軽にどうぞ。もちろん、お問い合わせは無料です。